某所へのお返事のお返事。

まず前提として、なぜこれが問題になってるかというと基本的には一本気だけどバンナムの不興を買ってはまずい」と考える人が一定数いたから。この考えが正しいものかどうか、その違法性問題性がMADと比べてどの程度のものかというのはこの際置くが、実はこういった理屈付けがされる以前に水面下での漠然とした不快感があって、その原因として「ゲームディスク内の生データはオリジナルであるがゆえに神聖不可侵のものである」という発想があるんじゃないかなと思う。多分エンジニアリング精神旺盛な人だとこれが逆にオリジナルのデータ解析への意欲に向かうのだろうが、なんにせよ言われているようなルーツや教義を無意識に設定するということの精神的支柱としてこういった思いがあるのではないかなと。


アイマスMAD界隈ではゲームの映像を加工したPV系の他に手描きや3Dポリゴンといった完全素材自作系の流れがあって、それらは意識の上でPV系とは明確に区別されつつも同じアイマスMADジャンルとしてしっかり確立し認識されている。つまりは、これらはどこまで行ってもオリジナルを侵犯しないフェイクであって、だからこそ抵抗無く受け入れられているのだと思う。



今でこそ有名アイマスMADPVの代表格のように扱われるわかむらP作品も、参入当初はその(当時としては)過剰な加工演出ぶりから「これはアイマスMADじゃない」との評価が少なくなかったらしい。そこには程度は違えど今回と同様の「オリジナルを侵犯してはならない」という発想があったのではないかと推測できる。ちなみに今ではこの程度の加工演出は、その数も見る側の意識としてもさして驚くレベルではないほどに当たり前のものになってきている(わかむらPの技術レベルそのものは相変わらず高い位置にある)。要は慣れの問題だろうが、「ゲームの映像を二次利用する限りはこれもオリジナルの侵犯にあたらない」というコンセンサスが自然と醸成された結果だろう。


というわけで、「生データ解析とそれを利用してのMAD」というものも、いざ普及してしまえばその心理的抵抗が薄れるのにさほど時間はかからないのかもしれない。そのジャンル内における技術的な競争もこれまでとはまた違ったレベルで、しかしこれまで同様の盛り上がりで加熱することだろう。技術的な参入障壁がそこまで高くなければだが。
そもそもアイマスのビジュアル画期性はポリゴン造形そのものよりむしろシェードや輪郭線抽出レベル、そしてモーションキャプチャによる重さと息遣いを感じさせるようなダンス再現技術にあるわけで、実は上記のような事態になっても思うほど「オリジナルの価値」は貶められるものではないかもしれない。しかしやはりキャラのポリゴンデータというのはそれこそ文字通りの偶像=アイドル、シンボル、スタチュー、フィギュアであるわけで、それを自由にすることに対する抵抗は、少なくとも現時点ではやはりまだ強くあるかなあという気がする。管理人自身の心情を鑑みても。


さて以上お返事にあわせてやや心理的思想的な方面で返してみたが、MAD制作側の立場に立つとまたもう少し打算的な都合もある。要するに技術革新によって今までの苦労の価値が相対的に低下するのではないかという話。
アイマス無印よりも映像キャプチャ素材として圧倒的に使い勝手がよくなった(冗談でMAD用の素材撮りソフトと言われるほどに)新作L4Uリリース当初にも、実はこう思ったPは一定数居たのではないかと思う。無論それよりも諸々の喜びと興奮が先立ったろうが。
ニコマス界の内におけるPたちの切磋琢磨による映像技術革新にも目覚ましいものがあり、過去の技術が陳腐化することはままある。
これらの積み重ねを一気に過去のものにしてしまう技術があったとしたら、古参の熟練した作り手ほどそれを疎ましく思うかもしれない。まあここまで言うと言い過ぎかもしれないが、逆にここまでくるともうMADやら映像技術やらに留まらない余りに一般性の高い話だ。